‘“江の川重薬”の折々’ カテゴリーのアーカイブ

「江の川重薬 -江の川流域の薬草の知恵-」(2009年発行)の続編として、この地域で季節ごとに出会う草々に想いを繋ぎながら、画像とともに紹介していきたいと思います。薬草ばかりではなく、私たちの身近には、古くから様々に伝えられてきた多くの植物があります。神話に登場した、万葉で謳われた、古文書に残された、それに地域で独自に言い伝えられてきた等の由縁を温ねながら、愉しく彷徨いたいと願っています。ご一緒によろしく!

上津井のツチアケビ!

2010年12月10日 金曜日

2009年3月に発行しました「江の川重薬 -江の川流域の薬草の知恵ー」で江津市跡市の方に伺ったツチアケビを紹介しました。跡市に嫁いで来られたその方の昔の思い出として、上津井の実家の近所のお家でいつもをツチアケビを軒下に干しておられたというお話でした。虫歯の痛みに効いたということでした。それ以降、ツチアケビを確かめたくて、上津井に出かけることがあります。生えていそうな杉林を歩いたり、出会った人にお話しを聞いたりするうちに、上津井温泉に入りに行くことが増えてきました。この温泉は地区の自治会で運営しておられて、土日の午後2時から7時まで当番でお世話をしておられます。上津井地区の寄り合いにもなっていて、風呂上りに聞くと、何人もの人がツチアケビを知っている、見たことがあると話しておられました。このごろは少なくなったとのことで、見たらぜひ教えて下さいとお願いしていたところ、先日見つけた人がいると教えていただきました。昨年は花を撮影した方もおられ、番台に置いていただいている「江の川重薬」に写真がはさんであります。来年こそは花から見つけて、赤く実の成るまで観察したいと考えています。

上津井温泉は隠れた名湯とされています(下記URL参照)。

http://www.geocities.jp/onsengakusi/kanzui.htm

ところで、先日、飯南町に出かけた折に、頓原の道の駅に寄ってみましたら、産直市場に「ツチアケビ」が売られていて、驚きました。一袋千円の値が付いていました。数は出ないけど、痛み止めとして求める人がおられるとのことでした。もちろん「薬」として標榜できないので、何も書かずに置いてあるとのことです。近くには「キハダ」の皮(コルク層)も売られていました。こちらは染色剤や入浴剤として使われているとのことでした。

薬膳便り(2):秋の有福膳

2010年10月29日 金曜日

第24回目の薬膳試食会が10月15日(金)に開催されました。この会の取り組みの一つとして、江の川流域に多くの足跡を遺している柿本人麻呂の歌に詠まれた、植物・食材の何かを献立に組み入れることがあげられます。人麻呂の数多くの様々な歌に接し、同時に地域の豊かな植生、自然環境に想いを馳せて、古しえから変わらない自然と生活との結びつきにあらためて理解を深めようという趣旨です。

今回はマコモタケ、紅花、松(松の実、マツタケ)が用いられていました。マコモタケは先に紹介したことがありましたが、マコモの若い茎に黒穂菌が寄生して肥大化した部分で、タケノコに似た外観です。適度な歯ごたえと若干の甘味があって、中華料理では従来から高級食材とされていました。食物繊維が豊富で、ビタミンB1・B2、カルシウム・鉄などのミネラル、クロロフィルを含有し、慢性疾患を予防、血圧や血糖値の低下、免疫力の強化などに有効といわれています。最近、各地の地域起しの食材として取り上げられることが増えています。さて、人麻呂の歌も挙げておきましょう(マコモ)。

飼飯(けひ)の 海の庭好くあるらし 刈薦の 乱れ出づ見ゆ 海人の釣船        (3/256,柿本人麻呂)

やすみしし 吾が大王(おおきみ) 高照らす 吾が日の皇子(みこ)の
 馬並めて みかり立たせる 弱薦を かり(狩)路の小野に ・・・
      (3/239,柿本人麻呂)

この日は、八月の有福の大火からの復興をテーマとして、テレビのニュースの取材(山陰中央テレビ)もあり、参加者一同、やや興奮気味に席が盛り上がりました。
写真・左はマコモタケの炒め物、右は肥大化した茎の部分です。左下はマコモと生産者の小林さん、その右は取材風景。(N)

神なびの みむろの山の くずかづら(葛蔓)・・・

2010年10月5日 火曜日

 10年ほど前には、ここを歩くとフジバカマ以外の秋の七草がすべて揃うという里山の道筋がいくつか思い浮かんだものです。ちなみに、フジバカマは島根県では自生地が確認されていません(発見されていません)。ところが近頃、キキョウが見つけにくくなり、オミナエシ、カワラナデシコも少なくなりました。植物の世界にも盛衰の流れがあるようで、クズ(葛)だけは里山も川原も覆い尽くすかのように隆盛を誇っています。この力強い繁殖力は古来より永遠の命の象徴とされ、多くの歌に詠まれ、暮らしのなかで様々に応用されてきています。

 標題は「大伴家持(新古今和歌集)」の「神なびの みむろの山の くずかづら  うら吹きかへす 秋は来にけり」から引用しました。

 秋の七草は薬として用いられた植物ばかりですが、葛は現代でも「葛根湯」として風邪の初期や肩こり、頭痛に効果を発揮しています。民間薬としては花や茎の絞り汁(葛汁)が二日酔いに用いられたり、葛粉をお湯に溶いた「葛湯」も寒い時期の風邪の予防に用いられます。葛の花は手にとって見ると甘い芳香がありますが、ニ三片を盃に浮かべて温めたお酒をいただく「葛酒」という趣向もあり、なかなかのものです。花が二日酔いの予防になるということで、意外に理にかなっているとも言えそうです。茎からは繊維もとれ、中国では、綿花を栽培する(宋代以降)ようになる前は、「葛布(カツフ)」として夏服の素材に用いられていたそうです。わが国でも万葉時代に使われていたようで、

「大刀(たち)の後(しり)、鞘(さや)に入野(いりの)に、葛(くず)引く我妹(わぎも)、真袖(まそで)もち、着せてむとかも、夏草(なつくさ)刈(か)るも : 柿本人麻呂歌集より」

という歌も残っています。今でも静岡県掛川市では歴史的特産品として「掛川手織り葛布」が作られています。

 なかでもやはり食品としての「葛粉」がもっとも一般的で歴史もあり、当地では「西田葛」が有名です。桜江、中村家(西田屋)にも西田葛を用いた羊羹の作り方のレシピが残されていて(下:写真)、江戸時代にも盛んに利用されていたことが分かります。レシピ通りに再現したところ、とても美味しかったとのことでした。また、有福、三階旅館の薬膳の会でも、葛の若芽を春の山菜として天ぷらにしたり、時折りお膳に登場する「葛刺し」は思わず参加者から声の挙がる一押しの一品になっています(N)。

「真菰(マコモ)の花」は秋の季語!

2010年8月26日 木曜日

 

 

                                                                                                                                             マコモの花が咲いていました(上左、右は紫色の実)。実はすぐに鳥に食べられてしまいます。米国ではワイルド・ライスとして健康食品とされています。

 出雲大社平成の大遷宮で一昨年行われました御本殿特別拝観(御本殿内部の拝観)のときに、本殿に上がる階段のうえに下げられた注連縄が稲藁ではなくマコモであることを確かめました。撮影はできませんでしたが、後で社務所に御願い書を出して、頂いた画像が下の写真です。                    

 中国では、古来マコモの実(菰米)は重要な主食でした。 『周礼』天官(紀元前二~三世紀)に「凡そ王の饋(みけ)は、六穀を食用にす」とあり、その注に「六穀とは、稌(イネ)・黍(キビ)・稷(キビ)・粱(アワ)・麥(ムギ)・苽(コモ)。」とあります。日本でも稲が渡来するまではマコモが食用とされていました。今は稲藁が用いられている注連縄もマコモの代用と考えられています。今でも出雲大社の神事や、天皇家の大切な行事にマコモが用いられていることが知られています。五月に作られるチマキには、今はササが使われますが、中国では古来、マコモの葉が用いられていたという記録もあるようです。出雲大社にマコモを納めている、出雲市平田地区では、いまでもチマキにマコモの葉を用いているところがあります。

 江津市には菰沢池があり、市内跡市千田にはマコモ田、下マコモ田という地名、屋号が(マコンダ、マクミダと訛って)残っています。跡市地区に残されている澤津家文書には、浜田藩にマコモが納められていたという記録も残されています。江津市山之内地区から羽代地区の谷筋にかけては、以前マコモが植えられていて、毎年、神社に奉納されていたことを覚えているという古老もおられるそうです。河川整備の影響か、現在では限られたところでしか見ることができません。

 昨年末の報道で、東北地方でマコモで正月用の注連飾りを作る催しが紹介されていました。私たちも仲間に依頼して試作してもらい、玄関先に飾って見ましたが、葉が太く風格があり、香りの高い注連飾りになりました。今年も是非とお願いしているところです。

 江の川流域でマコモが残っているところをご存知でしたら、ぜひとも教えてください。(N)

江の川の夏!秘かに秋の兆しが・・・

2010年8月4日 水曜日

 猛暑のなか、江の川の河川敷に出かけて見ました。夏休みの家族連れが数組、水遊びの真っ最中。まぶしい日差しのなか、川岸にピンクの花が見えました。秋の七草のひとつ、カワラナデシコでした。以前は群れ咲いていたのですが、近頃は見つけるのが難しいほどに少なくなりました。地域によっては絶滅危惧種に指定されています(ヒトの世界でも同じだと聞きますが?)。万葉集には多くの歌に登場しています。その一つに、

「萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花:山上憶良」

七草を並べただけの歌。春の七草は食べられる植物ですが、秋の七草はお薬になる植物です。上の歌は、医薬品のリストとも言えそうです。ちなみに朝顔の花とはキキョウのことだとされています。

カワラナデシコは生薬名は「瞿麦(クバク)」、効能は消炎利尿作用(腫れ、むくみをとる)、腸管運動亢進作用(お通じを良くする)。スリムな健康美を目指すのに適した薬草といえそうです。小さな花に秋の気配を想いつつ、万葉集からもう一句(N)。

「野辺見ればなでしこの花咲きにけり我が待つ秋は近づくらしも:詠み人知らず」

そして、梅雨の7月・・・

2010年7月13日 火曜日

お化粧がすみ、花も咲きました。(N)

薬膳便り(1):夏の有福膳

2010年7月12日 月曜日

7月9日(金)に第23回目の薬膳試食会が開催されました。6年前から始まったこの会は、薬草観察会の参加者を中心に年に4回(春夏秋冬)に、有福温泉の三階旅館で行なわれています。地域の食材を取り入れながら(地産地消=地産地生)、こだわりの一つとして、柿本人麻呂が詠んだ植物をどこかに組み込んでいただいています。万葉集には多くの草花が詠まれていますが、それぞれ、当時の暮らしのなかで大切な用途があったものと考えられています。今回はそのなかで

「我が宿の、軒(のき)にしだ草、生ひたれど、恋忘れ草、見れどいまだ生ひず:柿本人麻呂歌集より」

「忘れ草」はノカンゾウ、ヤブカンゾウとされています。ユリ科ワスレグサ属の植物で、春の若芽は食用にされます。中国では薬用にも用いられていますが、根にアルカロイドを含み、毒性もあるので注意が必要だそうです。花は金針菜として、中華料理の材料となり、今回のお品書き(上記)にも酢の物に取り入れられていました(右下写真)。翌日、上津井の温泉に向かう道端にヤブカンゾウが咲き乱れていました(左下写真)。いつものことながら、植物談義の飛び交う楽しい一夜の宴を過ごしました。(N)                                              

お化粧前?

2010年6月16日 水曜日

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 時々、薬局の窓口に患者さんが植物を持ってこられます。知り合いのおばあさんが、これを煎じて下剤に使っておられたそうで、家の周りにたくさん生えているが葉がハート型なのでイカリソウではないか、とのことでした(写真:左)。そうではないとご返事して、(自信がなかったので)調べて連絡しますと、お帰りいただきました。問い合わせた上で、まだ葉が白くなっていないけれどハンゲショウだと確認し、お電話しました。場所を聞いて出かけて見ましたら、右の写真のようにドクダミ(重薬)と一緒に観察できましたので、この欄(“江の川重薬”の折々)にピッタリということで紹介します。ハンゲショウ(半夏生、半化粧)は観賞用としてよく知られていますが、ドクダミ(重薬)と同じくドクダミ科の植物で薬草の一種です。利尿作用が知られていますが、ドクダミと同じように緩下作用もあるのかも知れません。ドクダミほどではないですが、特有の香りもあります。

 さて、所変わってドイツでは、一般のひとがハイキングに出かけてキノコを採ると薬局に持って行き、薬剤師に食べられるかどうか訊ねてから利用する習慣があります。日本でも薬剤師はみんな、薬用植物の勉強をしていますので、もし気になる植物があれば、持っていって聞いてみましょう。私も患者さんに教えてもらって違法のケシを確認し、保健所に連絡したことがありました。今は忘れられていても、私たちのご先祖が生活の中で用いていた薬草を皆さんとご一緒に確かめていきたいと思います。よろしくお願いいたします。(N)